「鵜呑みにするな」とは、時折きく言葉です。
この発言は、実はその人の発達段階によって意味が変わります。
今回の記事では、ロバート キーガン 意識の発達段階(成人発達理論・成人発達段階)を使ってそれを解説したいと思います。
ロバート キーガン 意識の発達段階と「鵜呑み」
ロバート キーガン 意識の発達段階とは?
人の意識の発達を5段階に区分し、説明したものです。
各段階を簡単に書くと、以下のようになります。
- (発達段階1→言葉を覚えたばかりの段階なので省略)
- 発達段階2→まだまだ子供っぽい
- 発達段階3→我慢を覚えて空気を読み大人になった
- 発達段階4→みんなを引っ張る頼もしい大人
- 発達段階5→酸いも甘いも噛み分けた大人
このステップは成長と共に踏んでいくものです。なので、2→4.3→5といったように、段階を飛ばしての成長はしません。
そして、成長すれば良いというものでばければ、成長してはいけないというものでもありません。成長を単純にランク付けするものではないと、ご留意いただければと思います。
(聞き分けの良いルフィや、知的な孫悟空が良いと思うかどうかです)
「鵜呑み」とは
鵜呑みの意味は
「よく考えないで受け入れること」「物事の真意をよく理解せずに受け入れること」
です。鵜呑みにする、鵜呑みにしない、といった使い方をします。
1つの発言には、嘘か本当かでは割り切れない要素があります。
ある飲食店でお勧めのランチメニューを聞いたとします。
そうしたら、ランチAセットを勧められました。これに対し予想できる意図を書いてみると、Aランチセットが
- (客にとって)コスパが良い
- ランチの中で特に美味しい
- 他の客から評価が高い
- 店側の自慢の商品
- もっとこの商品が売れてほしい
- 早く提供できる
- 店側の儲けが多い(原価が低い)
- とりあえずこれを勧めると決めている
他にもありますが、ざっと考えてもこれぐらいは浮かびます。
絶対にこれがお勧め!と言い切れるものでもなければ、お勧めでもないのに嘘をついているとまでは言えないものも、この中にはあります。
店側の意図を読み取り、自分のメリットと一致するかどうかを考えてみるのが、「鵜呑みにしない」ことです。
発達段階によって違う「鵜呑み」の意味
なぜ発達段階によって意味が変わるのか?
「小学六年生」に対し何をイメージするか、で例えてみます。
- 小学一年生にとっての「小学六年生」→頼りになるお兄さん/お姉さん
- 中学二年生にとっての「小学六年生」→頑張っているけれどちょっと危なっかしいな
- 社会人にとっての「小学六年生」→まだまだ子供
と、成長(年齢)によって見え方、感じ方も変わりますよね。
これと同じように、発達段階によって言葉の意味が変わります。
あまり変わらないものもありますが、「鵜呑み」についてはずいぶん意味が違うようです。
意識の発達によって発言の意味が違うのは、どのような行動原理に基づいているか?という「しくみ」が違うからです。
各段階の世界観の違い、価値観の違いとも言えます。
(これが分かるから発達心理学って面白い!と私は思っています)
各発達段階による「しくみ」と鵜呑みの解釈
第2段階
【利己的段階】
周囲と自分の関係は、損か得か、勝ちか負けかになります。弱肉強食の世界観です。他者の気持ちになって考えることは困難な段階です。
この段階では「鵜呑み」の意味を理解出来ていません。
- 鵜呑みにする=信じる・従う
- 鵜呑みにしない=信じない・従わない
というレベルの認識です。
そしてこの段階にある人が、「鵜呑みにするな」という言葉をよく使います。
他の人のいう事は聞かずに自分の意見に従えと、体よく言うのに便利な言葉だからです。
第3段階
【他者依存段階(慣習的段階)】
周囲と自分の関係は、決められた世界や価値観を用意してもらい、そこへ貢献する事です。
自らの意思決定基準を持たない善良で従順な人の段階です。成人の55%~70%、つまりほとんどの人がこの段階にいます。
自分の意見はあまり言わず、人の意思を尊重したいと願うこの段階の人が「鵜呑みにするな」と言われやすいのです。
そして「鵜呑みにするな」という意見さえ自分に取り入れようとして悩んでしまいます。
第4段階
【自己主導的段階】
周囲と自分の関係は、自分の中での完璧を目指し、「規定した世界や価値観の中」での中心となり率いていく事です。
「規定した世界や価値観の中」からははみ出していないことがポイントです。
自分の意見をしっかり持ち、押し付けではない範囲でみんなをまとめ引っ張っていくこの段階が、発達段階の理想的なゴールとされています。
これより過ぎてしまうと周囲との価値観が合わなくなり、逆に生きにくくさえなります。
この段階では、全体のことを考えながら積極的に自分の意見を述べ始めます。
第2段階の、自分の思い通りにしたいためのものとは違い、より良い方向へ皆で進むために発言します。
この段階が「鵜呑みにするな」と言う場合は、よく考えて欲しいという気持ちからです。
なので、自分の発言も含め「鵜呑みにするな」と言います。どうしてそれを鵜呑みにしてはいけないのかの説明もします。言葉や現象に隠された意味も説明出来ます。
第5段階
【自己許容・相互発達段階】
この段階にとっての周囲と自分の関係は、常に対等であるという事です。「絶対的な存在の自分自身」と「集団の1人に過ぎない自分」を、心で理解し内包しています。
その結果、多様な価値観・意見などを取り入れつつ的確に意思決定ができます。
人の発言の意図を理解出来て、上手くくみ取ったり当たり障りなく避けたり出来ます。第3段階の人が目指す「鵜呑みにしない」状態はここだと思われます。
ですが発達段階は3→5と順序を飛ばしては進まないので、発達段階3の人は思うように成長できずに悩みます。
この段階の人はあまり鵜呑みという言葉を使わないと思われます。鵜呑みをするのにも理由や原因があり、それをも尊重するからです。
鵜呑みにする部分も含めてのその人だ、という理解です。
「鵜呑みにするな」の発言の意味
この言葉を強く使うのは、自己起点で考える「発達段階2」の人です。
なので、「鵜呑みにするな」と言われた場合、
- 思い通りに操りたいからという意図はないか
- その「鵜呑みにしてはいけない」発言の真の意味が解説出来るかどうか
- 何故鵜呑みにしてはいけないか納得できるような理由があるかどうか
を検証してみてください。
コントロール目的の「鵜呑みにするな」という発言ならば、その「鵜呑みにするな」という言葉を鵜呑みにしてはいけないということになります。
正しく聞こえるような言葉を持ち出して、「あなたは正しくない」という罪悪感を植え付けコントロールしようとしている場合があります。
鵜呑みにするなと言われた時の考え方
鵜呑みにするなと言われやすいのは、従順で人を優先する「発達段階3」の人です。
この段階の人は、相手の望むように動きたいと思います。ですが人によって意図が違うので、悩むことになります。
発達段階2の「鵜呑みにするな」は、その人の言う事を聞くなという意味です。
その人の発言の意図を検証し賛同した(=鵜呑みにしなかった)場合でも、賛同=鵜呑みです。
なので「だから鵜呑みにするなって言っているでしょう!」と怒ります。
発達段階4の「鵜呑みにするな」は、相手の真意・意図をよく考えてという意味です。(これが本来の「鵜呑みにするな」の意味です)
それを、鵜呑みにするな=賛同しないと受け取り実行してしまうと、「そういう意味ではないでしょう?」と、とがめられます。
相手がどの世界観で「鵜呑みにするな」と言っているのかを知るのが、手っ取り早い解決の道です。
時間はかかりますが、別の方法もあります。
鵜呑みにしないためには、相手の発言にある真意・意図を理解する必要がありますよね。発言する側の意図を知る確実な方法は、自分が発言する側になってみることです。
気分や我がままではなく、何か意図を持ってしっかり発言するのは第4段階です。ここを目指していくのが、鵜呑みにしない方法です。
何かのグループのまとめ役や中心人物になる事が、第4段階に移る方法の1つです。
まとめ
- 発達段階によって「鵜呑み」の意味が違うのは、世界観が違うから
- 発達段階2の鵜呑みにするなは、相手の言うことを信じるな、嘘と思えの意味
- 発達段階4の鵜呑みにするなは、相手の発言にある真意・意図を考えての意味
- 発達段階3の人が「鵜呑みにするな」という言葉を鵜呑みにするために悩んでいる
- 相手がどの世界観に住んでいるかの見極めで、意味が推測出来る