発達心理学という、人の成長の過程を心理学で研究・分析している分野があります。その中で、
成人についての発達理論があります。
その成人発達理論で最初に学ぶのがこのロバート・キーガンのものという人は多いはずです。
それぐらい有名かつ、発達理論の中では構造が単純だからです。
単純なのですが、イメージをつかむまではイマイチ分かりにくいものでもあります。
なので、この記事ではキーガンの成人発達理論についてなんとなくでも分かってもらために、とにかくイメージを中心に書いていきます。
発達心理学は楽しいです!
理解する前と後では、世界が全然違って見えます!!
このキーガンの発達理論さえ理解できれば、他の発達段階の理論もすんなり分かるようになります!!!!
発達理論とは?
人が成長していく時の変化や特徴、順番には共通点があり、それをまとめ研究したものです。
人が成長していく時に、行動や思考に変化が出てきます。
その変化・発達過程にはいくつかの「特徴付けられる段階」に分けられます。何を起点にして発達を見ていくかで、いくつかの発達理論があります。
児童発達理論と成人発達理論
児童発達理論
生まれた時から大人になるまでの発達を段階区分で説明したものです。代表的なものは以下の3つです。
- ピアジェの認知発達段階説(子どもの発達を「認知を獲得する過程」で見る)
- マーラーの分離・固体化理論(子どもの発達を「独立していく過程」で見る)
- フロイトの心理性的発達理論(子どもの発達を「リビドーの成熟」で見る)
成人発達理論
人は成人してからも発達を遂げるという観点から、大人の発達を段階区分で説明したものです。今回の記事での、ロバート・キーガンの成人発達理論が有名です。
ロバート・キーガンの成人発達理論
覚える段階は4つだけ
ロバート・キーガンの成人発達理論の段階区分は1~5段階まであります。なので5つの段階を勉強しなければ…と思われるかもしれません。
ですがその中の「第1段階」は、言葉を覚えたくらいの子供の段階です。
あくまでも成人発達理論なので、ここにはあまり触れません。(私が受けた講座でも一言二言の説明で終了していました)
なので、発達段階2、発達段階3.発達段階4.発達段階5、の4つを把握出来ればOKです。
4つの段階のそれぞれのイメージ
なぜその状態がその段階なのかについては、後に補足します。
ざっくり説明すると
- 発達段階2→自己中心的でわがまま
- 発達段階3→大人しい従順なその他大勢
- 発達段階4→人を受け入れつつみんなを引っ張る頼れる人
- 発達段階5→他者を優先し多くの価値を受け入れ自分の道を進む出来人
ドラえもんのキャラでいえば
- 発達段階2→ジャイアン、スネ夫、のび太
- 発達段階3→その他大勢のキャラ
- 発達段階4→しずかちゃん
- 発達段階5→出木杉君
ちびまる子ちゃんのキャラで言えば
- 発達段階2→前田さん、永沢君
- 発達段階3→たまちゃん、とし子ちゃん、笹山さん
- 発達段階4→大野君、杉山君、丸尾君
- 発達段階5→担任の先生
会社組織では
- 発達段階2→頑固な職人気質の人、パワハラ上司
- 発達段階3→言われたことをまじめにこなす目立たない人
- 発達段階4→尊敬できる部署のリーダー、ワンマンだけれどやり手の社長
- 発達段階5→腰の低い社長、会長
チャクラの発達段階で言うと
- 発達段階2→第2チャクラ
- 発達段階3→第3チャクラ
- 発達段階4→第4~第5チャクラ
- 発達段階5→第6チャクラ
- (発達段階6→第7チャクラ)
ロバート・キーガンの成人発達理論とは?
ハーバード大学教育大学院教授のロバート・キーガン博士らが提唱する発達心理学の1つです。人間を発達段階で大きく5つに分類し、それに基づいて会社の組織開発や人材育成に役立てられています。
自分軸と他人軸
上の図に書いたように、自分軸と他人軸を行き来しながら発達段階を超えていきます。これが人の発達を見ていく気付きのポイントです。
自分軸は、発達段階2,4です。
「パワハラ上司と頼れるリーダー」「ジャイアンとしずかちゃん」「前田さんと大野君」です。自分の意見をはっきり主張し、周囲を動かすタイプです。その動かし方で、人間が出来ているかいないかの差が出ます。
他人軸は、発達段階3.5です。
「従順な社員と腰の低い社長」「その他大勢のキャラと出木杉君」「たまちゃんと担任の先生」です。自分の意見を主張することなく、周囲を積極的に動かそうとはしません。
発達段階2,4は自分軸 発達段階3.5は他人軸、という共通点があるために混同されがちです。その代表が「パワハラ上司」と「頼れる上司」です。
(発達段階1:具体的試行段階)
具体的な物事を思い浮かべて思考・行動出来ますが、抽象的な物事は理解できない段階です。言葉を覚えたばかりの子供の段階で、成人はここを超えています。
発達段階2:道具主義的段階(利己的段階)
大人の10%くらいがこの段階にいます。
この段階にとっての周囲と自分の関係は、損か得か、勝ちか負けかになります。弱肉強食の世界観で生きているため、多くの人が勝ち気でエネルギッシュです。
他者の言動は分かっても感情や思考は理解出来ません。つまり人の気持ちになって考えられないという事です。
勝ち負けで全てが決まるので、自分より弱いものは黙って自分に従うべき、自分より強いものには完全降伏です。
勝ち負けの対象が「人」ではない場合もあります。
自分に納得が出来る作品が出来るまで壊し続ける陶芸家のような人もここです。負けず嫌いな面もあるので腕のいい頑固な職人になります。
パワハラ上司が、部下に横暴で上司に媚びへつらうのは、この価値観が原因です。
スネ夫はジャイアンに従いのび太に横暴です。ジャイアンは多くの同級生に偉そうな態度をとりますが、自分の「カーチャン」には負けているので言うことをききます。
発達段階3:他者依存段階(慣習的段階)
大人の55%~70%、つまりほとんどの人がこの段階にいます。
組織の中の善良な一員であることを望んでいて、基本的にとても従順です。
この段階にとっての周囲と自分の関係は、規定された世界や価値観を用意してもらい、そこへ貢献する事です。
他者の言動は分かるけれど思考や感情はそれほど理解できていない状態です。
言っていることや、ある程度の気持ちは読めるけれど、真意までは分からないといった感じでしょうか。
人の言動にすぐ流されたり、流行を追う人がこの段階にいます。大勢のうちの1人というスタンスを取り、人と違うことや目立つ言動、自己主張を避けます。
ちびまる子ちゃんのたまちゃんは主人公の友人なので目立つキャラになっています。ですが他の人が主人公ならば、その他大勢の目立たない存在になるはずです。
発達段階4:自己主導的段階
大人の20%がこの段階です。
リーダーシップを発揮し、小さな集団を引っ張っていける段階です。
この段階にとっての周囲と自分の関係は、自分の中での完璧を目指し、規定した世界や価値観の中での中心となり率いていく事です。
他者の言動思考や感情も分かり、敬意も払えます。ですが、自分とは違う価値観は理解出来ない段階です。
自分に厳しく、集団のまとめ役になる人がこの段階にいます。いわゆる親分肌でもあり、ムードメーカーの役を務める人もここにいます。
たとえば丸尾君(ちびまる子ちゃん)は、周囲のことをなるべく公平に、クラスの運営が上手くいくように気を配っています。ですがあくまでも丸尾君の正義感の範囲内です。自分とは違う価値観でクラス運営をやれと言われると、大きく混乱するはずです。
発達段階5:自己許容・相互発達段階
大人の1%~5%ぐらいがこの段階にいます。意識レベルが非常に高い段階です。
絶対的な存在の自分自身と集団の1人に過ぎない自分を、上手く心で理解し内包出来ている段階です。
この段階にとっての周囲と自分の関係は、常に対等であるという事です。
他人の価値観を取り入れ、相互発展を目指します。人のための行いが自分のためにもなるという徳の循環ができます。他人の言動や価値観も理解した上で、尊重します。
腰が低い温和な社長等がこの段階にいます。人の意見を受け入れつつ、自分も尊重できる人もそうです。
ちびまる子ちゃんの担任は、生徒のみんなを否定していません。ですが自分を抑えているわけでもありません。
パワハラ上司が誕生するしくみ
パワハラ上司の発達段階
発達段階2「道具主義的段階(利己的段階)」が、多くのパワハラ上司の段階です。
理想の上司はどの段階?
小~中規模の集団をまとめるリーダーとしては、発達段階4「自己主導的段階」が望ましいです。
自分軸なのではっきり自分の意見を言うけれど、人の意見も受け入れます。その上で自分のこだわりについては譲りません。
なので、みんなの意見を聞き配慮しながらも、中心的存在になって引っ張ります。その上で、部署や会社の肝心な方針はしっかり守ります。
なぜパワハラをする段階の人がリーダーになるのか?
パワハラ上司である発達段階2と、理想のリーダーである発達段階4は、両者とも自分軸です。なので、この2つは印象が似ています。
人の意見をまず聞く他人軸に対し、自分軸の人は、まず自分の考えをはっきり言います。
そして、発達段階2の人は勝つか負けるかの世界観で生きています。つまり「負けている」対象の、自分より地位の高い人には低姿勢で接します。
一方、自分が「勝っている」と思う部下には、高圧的になります。
人を見る目のない人事ならば、自分に対して低姿勢で、部下にはっきり物を言う姿を見て
「腰が低く丁寧なのに、部下をしっかり指導している」と、判断します。
(ブラック企業ならば、部下を怒鳴り散らしてさっさという事を聞かせるから便利と思い、パワハラと知っていて放置するでしょうが)
発達段階が分かれば世界が違って見える理由
人の言動を、点ではなく線で見るようになります。
今この時という瞬間的な視点ではなく、このような発達段階を遂げてこの過程だからこういう言動なんだな、という理解です。相手が歩んできた道が、ざっくりですが見られるようになります。
この段階までしか発達していない原因や、あえてこの段階で留まっている理由も考えられるようになります。
発達段階は上に進めば良いというものではありません。(もちろん進んではいけないというものでもありません)なので段階が低いことだけで良し悪しを判断できません。
もう1つは、相手の世界観への理解です。
段階によって、外を見るレンズが違う、世界が違って見えていると理解できれば、その人の言動も理解できます。
ジャイアンは「性格が悪い」のではなく、発達段階2の弱肉強食の世界観に忠実に生きているだけです。
まる子ちゃんの担任はもっと生徒にビシッと言ってまとめればいいのにと思うかもしれません。でも自分と他人を同じく尊重するという世界観なので、生徒を叱って否定しません。
どうしてそのような言動なのかと思う相手に対し、世界観の違いを当てはめて考えると理解できてきます。
1つの発達理論が理解できれば他の理論も分かる
(成人)発達理論でもいくつかの種類があります。
ですが、読んでいけばだいたい同じような意味のことを言っています。もちろん起点が違うので全く同じではありません。それでも、大体こんなものというのは共通しています。
世の中の多くの理論の共通する部分を抽出して作られた、ケン・ウィルバーの発達理論(インテグラル理論の「レベル」)というものもあります。
なので他の理論を勉強していても、「あ、これはキーガンで言えば発達段階3だな」と、当てはめられます。
いくつか代表的なものを表にしました。
キーガンが理解できれば、たとえば発達段階2は、ウィルバーのインテグラル理論を勉強している時に「レッド」だとピンときます。クック=グロイターの自我の発達理論では「自己防衛的段階」と同じようなものだとイメージがつかめます。
キーガン | ウィルバー | グレイブス | ケプザー | クック=グロイター |
0 | インフラレッド | 生存 | 古代的 | 共生的段階 |
1 | マジェンダ | 親族の精神 | 呪術的 | 衝動的段階 |
2 | レッド | 力のある神 | 呪術的 | 自己防衛的段階 |
3 | アンバー | 真理の力 | 神話的 | 順応的段階 |
4 | オレンジ | 闘争衝動 | 合理的 | 良心的段階 |
(4.5) | グリーン | 人間の絆 | 多元主義的 | 個人主義的段階 |
5 | ティール | 世界的視野 | 統合的 | 自律的段階 |
発達心理学をもっと深く学ぶ人への予備知識
発達段階の区分は、実際は複雑で簡単に言い表せるものではありません。それでも、概要やイメージとして、簡単なものを持っていたほうが理解しやすくなります。
たとえば「みかん」を例に出します。
みかんと言えば、黄色くて手のひらサイズで甘酸っぱいもの、というイメージがあります。
ですが実際のみかんは、色も違えば味や大きさ、形にもいろいろな種類があり、簡単に全てを言い表せません。「みかんじゃない、かんきつ類だ」と言われるかもしれません。
さらに言えば、実が生ったばかりのものや腐ったものも全て「みかん」です。
ですがそれも「黄色くて小さい甘酸っぱいみかん」という概念があって成り立つものだと思っています。
発達理論を勉強していく過程で、そのような複雑さに必ず直面します。そして概念を改める必要も出てきます。それでも、簡単なイメージをたたき台として持つことは悪くないはずです。
みかんは多種多様で簡単には言い表せないけれど、黄色くて小さくて甘酸っぱいもの、といった感じです。
まとめ
- キーガンの発達段階で覚えるのは4つ
・発達段階2→まだまだ子供
・発達段階3→我慢を覚えて空気を読み大人になった
・発達段階4→みんなを引っ張る頼もしい大人
・発達段階5→酸いも甘いも噛み分けた大人 - 発達段階2.4は自分軸、3.5は他人軸なので印象が似ている
- パワハラ上司は性格が悪いのではなく弱肉強食の世界観
- 「みかん」は多種多様と同時に、黄色くて小さくて甘酸っぱいという共通した見解がある
今の社会での理想のゴールは、発達段階4だと言われています。人をいたわりつつも、自分が中心になり、仕事や趣味を積極的に楽しむ、生きがいの持てる段階だからです。
自己啓発本でセールのトップ20に入るようなものは、そのほとんどがこの領域について書かれています。多くの人の「人生の課題」がここにあるとも言い換えられます。
4未満の人には、幸せになるために発達をうながし、超えてしまった人に対しては生きづらくない方法を探すのが、発達理論を用いたカウンセリング・コーチングの方法です。