自我はエゴとも言われ、持っていると良くないような印象があるかもしれません。
心を3つに分けた「自我・超自我・エス(イド・原我)」でその役割を説明すると、大切さが分かります。
生きつらい人は、自我が少ないからかもしれません。
自我の役割、少ない人の特徴とその理由を書いていきます。
心を3つに分けた「自我・超自我・エス」とは?
オーストリアの精神科医フロイトは、人の心を「自我・超自我・エス」の3つの要素に分けました。
エス(イド・原我)
エスは、人間の心の中の本能的な欲求や生理的な衝動を持つ部分です。普段は無意識下に抑圧されています。
眠い、遊びたい、好きなだけ食べたいとか、そんな欲求はエスになります。快楽原則(快楽を求め苦痛を避けること)に従った行動もエスです。人のエネルギーの源でもあります。
黒い心をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。
超自我
人が産まれた時、エスが大半を占めた状態です。
それが大きくなるにつれて、しつけや教育をされ、道徳を習います。TVや映画などを見たり、周囲の人の様子を見て、理想の人物像を持ってそれに近づこうとします。
そうして学習していったものを元に、ルールを守り倫理を大切にし、善悪の判断によって善い自分でありたいと思います。
これが超自我です。
白い心をイメージしてもらうと分かりやすいと思います。
自我
欲求そのままのエスと、清い自分でいたい超自我の2つの心では、葛藤と対立を繰り返してしまいますよね。
そこで、自我がその2つを自動で調整してくれます。
昼から大切な仕事がある、という日の朝に起きたら腰が痛かったとします。そこで
エス: 腰が痛いのに仕事なんて行ってられないから休む
超自我:痛いからといって動けない程ではないのだから、仕事を休むなんてとんでもない
という2つの気持ちが生まれます。マンガで見るような、心の中で天使と悪魔が戦っているような状態です。
そこで自我が「午後から出勤するように会社に電話して、午前中に病院に行こう」という、本人にとっての最適解を思いついてくれます。
白と黒どちらでもないグレーの領域をイメージしてください。
自我が弱いとどうなるか?
上に書いた、エスと超自我の両方の意見を聞きながら、その時に適した行動をとるのが難しくなります。
頭の中は、白と黒の両極端の意見に分かれているような状態です。
ゼロサム思考とか、0か100かの極論とか、完璧主義だとか、考えるパターンがそうなってしまうので、葛藤も多く心も不安定になりがちです。
なので、とにかく生きづらくなります。
大人になるにつれ、極論は周囲に受け入れられないなとか、そういうことに気がついてくる場合もあります。
そして他の人と同じような、グレーでちょうど良いような結論を出す練習をしていきます。
ですが、いちいち考え込まなければ答えが出ないので疲れます。その上苦労して出したグレーの答えが、自分らしくなくてすっきりしないような感じもします。
上の図:自我の領域が多ければ、極論に傾きにくいので心が安定します。
下の図:自我の領域が少なければその分、エスと超自我の領域が増えます。白と黒の2つからの選択になるので、心が不安定になりやすい状態です。
自我が少ない(弱い)原因は?
人は産まれたばかりの時。心はエスで占められています。本能の欲求が全開な状態です。そして大きくなるにつれ善悪や道徳を教えられ、超自我が出来てきます。
そんな中で、親などの保護者に認められ、大切にされることで自我が育っていきます。
認められなければ、超自我を増やして良い子でいようとします。逆に、エスを大きくして荒れ狂うパターンもあります。
どちらにしろ、白い心と黒い心は同じ量だけあります。良い子を演じれば、黒い心が抑圧されて大きくなっていきます。黒い心で周囲と距離を置いても、心の奥の白い心はズタズタに傷ついています。
自我が育たない原因
1.親に愛されたり、認められたりしなかった
積極的な虐待もあれば、優しい虐待、ネグレクトのような無関心もあります。
親に認められなければ、子どもにとっては生命の危機です。安心して自我は育ちません。
2.環境の変化で「見捨てられた」と感じた
下に妹や弟が産まれたことがきっかけになる場合がよくあります。今までは自分が一番に優先されていたのに、その座を奪われます。
離婚などで親が1人になり、今までのように時間に余裕がなくなってしまうこともあります。親なりにできることを必死でやっていても、うまく伝わらなくて、子どもの自我の成長が止まる場合があります。
3.親が精神的に未熟だった
子どもに子どもは育てられない、というパターンです。親がそれなりに成熟していなければ、子どもは安心・信頼してのびのびと成長はできません。
4.親子の相性の問題
親と子のどちらかが、かなり個性的な心の持ち主だった場合、いくら愛情を注いでも伝わらないことがあります。求めているものが違うからです。求めているものがもらえないと、認められていないんだと感じます。
5.親の自我が育っていない
いくら親が成熟していて愛情深くても、親の自我領域が少なければ、子どもの自我を育てられません。
ただこの場合は、子は親の愛情を感じているし信頼もしています。子ども時代は悪目立ちして苦労をしても、大人になれば成熟し、高い発達段階レベルに達しやすい傾向です。
自我の成長が止まってしまう時期
産まれた時から
産まれた時から自我が成長せず、非常に小さな領域しか持てません。白か黒の極端な意見に走りがちで、自分嫌いで自信もなく、とても生きづらい悩みを持つ人が多いです。
2歳前後
下に兄弟が産まれたり、服の着替えやトイレなどの自立のしつけが始まる時期です。これらがきっかけで成長が止まるパターンも多いです。
白黒はっきりしたい傾向はあるけれど、少し自我が成長している分グレーの領域があります。この部分が心にひっかかるようです。
6歳くらい
小学校に上がったくらいに、親との関係が変わります。環境の変化も起きやすい時期です。この時点で止まると、自分の言動について悩みます。目立つ事をして承認欲求を満たしたくなる人も多いようです。
10歳前後
特に女性が、この時期に自我の成長が止まる人が多い傾向があります。
第二次成長を迎えることで、心はまだまだ子どもなのにそうは見なされなくなります。この時期の女の子は態度も会話もしっかりしてくるので、親が精神的に頼りはじめる場合もあります。
この時期に止まった女性は、女性や母親としての役割に悩む傾向にあるようです。
自我が少ない人の心の対処法
良い面を見てみる
白と黒が多く、グレーが少ない状態は、究極を目指せる状態です。
グレーが多い人では気付けないような細部までのこだわりも、自我が少ない人には分かります。逆に細かいこだわりがなくせないのが悩みなくらいです。
そのこだわりで、多くの「最低」を見て来た代わりに、何にも代えられない「最高」も見つけられます。
ただ、周囲にまでそのレベルを求めると反感を買うことも多いので、そこは折り合いを付ける必要はあります。
最適な「グレー」を見つける
人の発達段階で高い段階に行くためには、自我が小さい必要があります。
なので、自我がもともと小さいのは、発達理論的には有利です。
自動的に自我でグレーを導き出すのではなく、意識で考え抜いて最適なグレーを出して、成熟を目指すという形です。
発達すれば良いというものではない(※発達してはいけないという事ではない)というのは、発達理論に深くかかわっている方々がよく言われる言葉です。
ですが、自我が少ない人が目指す方向性の1つとして、在るべき1つなのかと思っています。
まとめ
- エスは心の黒い部分、超自我は白い部分で、その2つを自我がうまく調整してくれる
- 自我の領域が少ないと極論に走りやすく、心が不安定になりやすい
- 子どもの頃に親などの保護者に認められることで、自我が育っていく
- 自我が少ない利点もある(活かすためには努力が必要)
自我の大きさによって、受け取り方や考え方は大きく変わります。
私の書いていることに共感や同意をしてくださる方は、自我の領域が狭い可能性が高いです。